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自分の歳は自分で決める。成熟世代のアンチエイジングサイト”モンナージュ” 最新号 BACK NUMBER
メッセンジャー
寺山いくこ 美容プロデューサー mon age編集長
アンチエイジングにつながるいろいろなコト
カルチャー
七尾の大海原に抱かれた「ル ミュゼ ドゥ アッシュ」 〜何度も足を運びたくなる辻口博啓氏の美術館。その魅力に迫る〜
モンナージュのメッセンジャーであるオーナーパティシエの辻口博啓さんの美術館「ル ミュゼ ドゥ アッシュ」が出身地である石川県七尾市に2006年4月にオープンしました。能登の海に面するシックな建物の中には、シュークルダール(お砂糖で作られた芸術作品)や飴で作られた壁画など、辻口氏らしい斬新な作品が展示されています。もちろん辻口スイーツが味わえるカフェも併設。今回、mon-age編集長の寺山がこの美術館からご招待を受け、辻口氏に案内してもらいました。いろいろ深い話もしてきた、同世代の辻口氏&寺山。そのときの様子をご紹介します。
 入り江の桟橋にはウミネコや鷺?と思われるような鳥たちが優雅に舞っている。ここだけは何か時間が止まったような、いや、やけにゆっくりと流れているような錯覚にさえ陥ってしまう。ほどよい海風が頬に心地よく、初めて来た人にもどこか懐かしさを感じさせ、歴史の重みが今なお育まれる石川県和倉温泉郷の一角に「ル ミュゼ ドゥ アッシュ」は優雅にただずんでいた。

 まずは入り口に立つ。すると全面に広がるのは、ガラス越しに見える海。建物の脇をすり抜けていけばすぐにも海につながる。ありきたりな表現だが、まるで葉書や絵の1枚にもなろうかという程、建物の美しい直線と静かに風とたわむれて揺れる海のバランス。もともとこの周辺の建物はみな海に面していて、まるで一身共同体というか、海が全ての母のような包容力で見守られている気になるのだ。おまけに七尾の海は朝日と夕日が両方見ることのできる稀有な場所。一日中たたずんでいても飽きることのない空間の一角にに芸術作品を展示する「ミュゼ(美術館)」がある。
ASAYAMA 〜朝霧の中、人々の掛け声と共に練り動く”でか山の影”。揺らめく垂れ幕をイメージ。
HANABI 〜夏の夜を彩る、人の心を癒す光の交差に日本を感じるという。
壁画 〜ダイオード光を使ったパノラマは、随時色が変化し見るものを飽きさせない。
 
 それにしてもお客様の入りが絶えない。「パティスリーブティック」には完璧なまでに並べられたスイーツが。美術館限定品のミュゼをはじめ、能登地方の素材を織り交ぜて和風に仕立て上げたものなどを含み多くの種類が並ぶのだが、我々がいる2時間足らずのうちにみるみるスイーツは消えていき、あっという間に残る1個となった。4月のオープン当初から辻口アートスイーツを求めて、この地域でもはや名物となった長い行列ができ、近隣から遠方までそれは多くの人々が駆けつけていると言う。しかも用意されていたスイーツは残らず完売。奥にはもちろんくつろぎながら極上のスイーツが味わえる「カフェ」スペースも併設しており、ガラスいっぱいに空と海がひろがる絶好の風景も一緒に楽しめるとあって人気は上々だ。辻口氏はいう。
「僕が生まれ育った場所を見て感じて欲しい。ここで育まれたものが僕の根本になっているし、すべてだから。」
目の前にひろがる日本海に、辻口少年は何を夢見たことだろう。
「日本を知らずして世界を知らず。当然、海外に行けば日本の事を聞かれます。その時にきちんと伝えられなければ話にならない。実際に海外に行っていろいろな角度から日本を見れましたしね。」
辻口氏
 地元に帰ると友人達が寝かせてくれないと嘆くが、その顔はゆるみ、実はうれしそうである。
「ル ミュゼ ドゥ アッシュに展示しているアートは、僕の中にある七尾の海や空気、光・・・そういったものを壊れやすくて繊細な<砂糖>を素材にして表現する事で、次世代に何かをきちんと伝えたかった。」言うのは簡単だけれど、それをきちんと形にするのが辻口氏の人並みはずれたパワーというかエネルギーなのだ。「大胆さと繊細さの両面を持ち合わせていなければ、伝統も続かない。大きければいいってもんじゃあないし、手が込んでいるから、だけでは・・・ね。バランスが大事。それに日本の人達はそれがわかるレベルの高さがあるんです。」例えば和菓子の世界。季節を盛り込み、旬を愛で、巧みの技で代々継がれていく秘伝の数々。それを目で楽しみ、舌で味わう人々がいる。そこには文化がある。だからこそ和菓子ではないスイーツでもアートが成り立つ、そもそもスイーツはアートなのだ、というのも納得できる。
「だから24時間、考えてますよ。」1日中、スイーツのことを考えているという。行き詰ったりしないのだろうか?と素人は考える。そしてそこまで彼を突き動かすものは何なのだろう、と。
「思いっ切り考えて、考えて、考える。僕の創作するアートは、決して死んでしまってから有名になるものではなくて"今"なのですよ。今がなければ。今を重ねるから未来がある。」
辻口氏はパティシエとしてはスリムである。だから舌が確かだと確信する。ボリュームのある人になるとどうしても甘いという感覚が鈍くなりがち。今を大事にするからこそスリムでいられるのだろう。
「それに年に2回、定期的に健康診断に行ってますよ。体もやっぱり鍛えないとね。ファッションで着るのは黒が多いかな。スイーツを一番引き立たせてくれる色のような気がする。まぁ白もよく着るけど(笑)靴はかなり持ってますよ。これでもか、ってくらい。僕のお洒落の原点かもしれない。ヘアはね、驚いた顔とか見るの、楽しいじゃない?周りもやってないしね。だから僕のトレードマークみたいになっちゃったかな。海外だと黒くても赤くても別にどうでもいいことなんだけれど、不思議だよね。」
 
辻口氏の足元にご注目!コレクションの一つ?!
壁には大きく”夢”と書かれているのが目を引く。
   話はどんどん膨らむが、スイーツを通して伝えたい事、次世代につなげたいこととは何なのか?
「1番になるには、言いたくないけれど努力は必要です。」ときっぱり。その通りだ。どこかの天才も99%の努力と1%の才能だと言っていた。「必ずやるんだと目標を持って、それを目指すこと。実はストイックなことなのだけれど、今の人達に足りないことだと思う。僕は誰もやっていないことで1番になりたかった。だからその夢を実現した。人間ってすごい、俺ってすごいっていうのは、体が覚えだしたらやめられないし、人に認められるのは人間としてとっても大事だと思ったわけ。そして世界に通用するかどうか、というものさしを自分で持ったことが大きかったと思う。人に言われたんじゃなくて、ね。」
 辻口博啓自身の体にしみこんでいる能登魂は、今やしっかりと世界に通じている。ノッている人は輝きが違うというが、それはおそらく本当だ。七尾の海も太陽に照らされてキラキラしていたが、辻口氏自身の目の輝き、特に未来を語る時の彼の眼は、本物である。そして今を生きるパティシエは少年の時に夢を見ていたときと同じようにしっかりとこれからの未来を見据えていたのであった。能登半島の豊かな恵みに育まれた、実は真面目なはにかみ屋は、大事な「今」を着実に積み重ね、1年後、3年後・・・とますます大きく羽ばたいていくという自信をたっぷりと魅せてくれた。「ル ミュゼ ドゥ アッシュ」の魅力とは何を隠そう、辻口博啓という人間力に他ならない。そう思えた瞬間、目の前にいる彼が一段と大きく見えた。と同時にアツイ。松岡修造とか吉川晃司のような、いい意味での。その道で極める人の大きな才能だと。アツイ部分があるから口うるさくて楽しい。私はとても頼もしく思う。  
入り口の反対側(海側)から見た「ル ミュゼ ドゥ アッシュ」の外観
辻口氏とミュゼの前にて
   七尾の海原に今一度、立ってみる。はるか昔に夢見たこと、これからの未来のこと・・・少しだけ立ち止まって、じっくりと考えてみたくなる。いや、何も考えなくても答えが聞こえてきそうな気がした。こんな故郷を持っている辻口氏がうらやましくなった。

ル ミュゼ ドゥ アッシュ
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