モンナージュ:人間には、灯りを見ると癒されるという本能があるのでしょうか。
坂本:ええ。人間が一番心地よさを感じるのは、キャンドルなどの炎の灯りだそうですよ。炎のゆらぎは、心地よさの指標である「1/f(えふぶんのいち)の揺らぎ」と言われています。
モンナージュ:「1/fの揺らぎ」とは何ですか?
坂本:風の音、小川のせせらぎ、ろうそくの炎のゆらぎなど、様々な自然現象の中に存在する、人間が心地よく感じる周波数のこと。ゆったりと揺れる炎は、私たちの脳に心地よさを与えてくれます。炎の次に人間が心地よく感じる灯りは、何かを通って来た「間接的な灯り」。障子から透けて来る灯り、隣の部屋からもれてくる灯り……その延長線上にある和紙の灯りも、柔らかい灯りと感じるのです。特に私がおすすめしたいのは「夜」。他の灯りを落とした状態で、和紙の灯りを使って頂きたいですね。
モンナージュ:だから私たち日本人は、幽玄でほのかな灯りに安らぎを覚えるのでしょうか。
坂本:そうですね。大事なのは、灯りの「光源」が直接見えないこと。光源が直接見えると、人間はストレスを感じてしまうため、灯りとしては良くないとされています。家のリフォームなどでも、クライアントが間接照明を多く希望されるのは、そのような理由があるのでしょう。また、間接照明にすることによって「影」が生まれ、安らぎを感じるのです。
モンナージュ:間接照明は、どこに置いたらいいのでしょう。
坂本:壁の近くがいいと思います。壁の近くに置くと、影が出るからです。例えば、液晶テレビの後ろから照明を当てると、テレビのシルエットが浮かんで、いつものテレビもインテリアの一部として愉しめます。また、観葉植物に間接照明を当てるのも、昼間の雰囲気とは違う面白い効果が得られます。横から光を当てると壁に長い影が落ち、プレ−ンな壁に葉の模様が現れ、夜にだけ愉しめる影絵のような視覚効果になるんですよ。
モンナージュ:テレビの後ろから照明を当てると、画面とまわりとの明るさのギャップがなく、また光が画面で反射しないので、目に優しいと言いますよね。観葉植物に間接照明を当てるのも、素敵なアイディアですね!
坂本:最近、間接照明を希望される方が多いのです。朝、昼、晩と、灯りを使い分けたいという希望があるようです。
モンナージュ:灯りを使い分けるのですか?
坂本:ええ。元々人間の生活サイクルは、朝起きて、夜寝る、というもの。太陽は朝昇り、昼に一番高く上がって、夜に沈みますよね? 灯りもそれと一緒。昼間は真上から照らす照明でもいいのですが、夜は自分の目線より下に照明がある方が、人間はくつろげるのです。
モンナージュ:そういうふうに照明をとらえたことって、今までありませんでした!確かに、かつて人間が自然の中で生活をしていた頃は、太陽の昇降に従って人間の行動も決まっていたのですよね。
坂本:その自然な生活に逆らうように夜も煌々と明るくして、なおかつインターネットで明滅する画面を見てから寝ようとしても、無理なんですよね(笑)。人間も動物ですから、太陽の動きと照明の高さを合わせることが、人間の生理に一番合っているのです。ですので、私がご提案する灯りも、目線より下。寝る1時間ほど前から天井のライトを消して、目線から下の間接照明に切り替えます。太陽の動きと照明の動きを合わせることで、朝は自然に起き、夜は自然に眠くなる。実際に、夜に眠れない認知症の方の治療法の一つとして、昼間は明るい光を浴びさせて体に昼間だと認識させ、夜は暗くして眠気を誘う、という方法があるんですって。医療の中でも灯りは使われているのです。 |