「能 安宅」は、兄の頼朝に追われる源義経と、主人を守り抜いた武蔵坊弁慶の話です。富樫が守る加賀の国・安宅の関で、強力(荷を負って従う下男)に扮した義経を富樫が怪しむと、山伏に扮した弁慶が機転を利かせて金剛杖で義経を散々打ち据え、気圧された富樫が関を通過させたという、あの有名なストーリーです。二十六世観世流宗家の観世清和さんが弁慶、その息子である観世三郎太くんが義経を演じました。観世清和さん演じる弁慶は凛々しく、また小学校2年生の三郎太くんが一生懸命演じる義経は、いじらしくも可愛らしく、満場の拍手喝采を浴びていました。
「狂言 舟ふな」は、意固地な主人と、ちょっぴり生意気な太郎冠者(召使い)とのやり取りに、何とも言えない可笑しさのある狂言です。西宮にお参りする主人が、川を渡ろうとして舟を呼ぶように太郎冠者に言うと、彼は「ホーイ、ふなやーい」と呼びかけます。主人は驚いて「ふなではない、ふねと呼べ」と言い、お互い古歌を引き出しては、舟は「ふね」か「ふな」かと言い争うという内容。祖父である野村萬さんと、利発そうな孫の野村虎之助さんの微笑ましいやり取りに、頬がゆるみます。人間国宝の野村萬さんの、味わいのある狂言が見事でした。
薪のもとで、伝統の至芸が次々と披露されます。夜の苑内に響き渡る笛や鼓の音、謡の朗々とした声は、ぞくっとするくらい雅なもの。野外では、虫の音や風の音も音響効果となり、花を添えます。伝統的な能や狂言の味わいと、野外ならではの開放感や季節感を、一度に楽しむことができる薪能……心のアンチエイジングにも、効果的かもしれませんね。ただし秋の夜は肌寒いので、防寒具をお忘れなく! |