山中さんがアクアソムリエになった経緯を、モンナージュスタッフは興味深く伺いました。では、日本における水事情や、欧米と日本の水の成分の違いなどを、続けて伺ってみましょう。日本は水が豊かな国で、水に触れている歴史が長い割には、あまり水を大事にせず「あって当たり前」という感覚があります。一方、ヨーロッパでは高い水を買って飲みますが、水への意識の違いはあるのでしょうか。
山中:元々日本は水資源が豊かで、意識もせず水を飲めたことは本当に幸せなことですが、豊か過ぎたため「守らなくても平気」という意識が芽生えたのかもしれません。一方、ヨーロッパでは河川の水でコレラやペストが流行したので、「地下水を大事にしなければ」という意識があり、水資源を守って来ました。
なるほど……ヨーロッパの水への意識が高い理由が分かりました。幸いにも日本は水に恵まれていますが、水は大切にしたいものですね。
ヨーロッパと日本では、水への意識も違えば、飲み方も違うのではないかと思います。日本人はご飯や煮物などの食べ物からも水分を摂っていますよね。よく「水は1日2リットル飲んでいます」というモデルさんがいらっしゃいますが、実はその2リットルとは地中海性気候を基準にした量。それを日本人がマネして、毎日2リットル飲むことが良いかどうか、というバランスの問題があると思いますが……。
山中:人間は1日に2.5リットルの水分を排出しています。300ミリリットルは代謝水ですので、残りの2.2リットルを食事と併せて飲めばいいのです。従来の日本人らしい食生活をしている方は、食事で1リットルくらい水分が摂れているので、残りの1.2〜1.5リットルの水を飲めば良いでしょう。しかし、日本人の食生活はかなり欧米化して来ていますよね。お米には約60%、肉・魚には約70〜80%の水分が含まれていますが、パスタでは30%になってしまいます。
モンナージュ編集部:パンなどの小麦粉製品も、水分含有量は低いですよね。
山中:そうですね。ですので、食品に合わせて水分量を調節しなければいけません。またミネラルに関しても、欧米化した食生活では海草類や野菜類があまり摂れず、ミネラル摂取量が偏ってしまうので、サプリメントで補った方がいいということになります。あくまでバランスの問題ですね。
水を買う際に、ラベルに「軟水」「硬水」と表示してあるのを見かけると思います。漠然と「硬水=苦い」「軟水=甘い」というイメージを持っていたモンナージュスタッフ。硬水、軟水、そして鉱泉水の違いとは何か、山中さんに伺ってみました。
山中:軟水は一般的にはクセがないものとされている一方で、硬水にはやや苦味があります。硬水、軟水の違いは、「硬度」で決められています。硬度は「カルシウム×2.5+マグネシウム×4.1」という計算式を基に炭酸カルシウムの量で計算され、日本では100までを軟水、100〜300までを中軟水、300以上を硬水と呼んでいます。カルシウムとマグネシウムの含有量が少ない水が軟水で、日本の水はほとんどが軟水です。それと、鉱泉水はミネラルウォーターと訳されることが多く、軟水も硬水も含んでいます。地下水の中でも水温が高いものは温泉水、水温が低いものは鉱泉水と呼ばれています。
モンナージュ編集部:日本の水が軟水なのは、何故でしょうか?
山中:雨や雪が降って地層に染み込み、それが岩石を通る間にミネラルを吸収するのですが、日本は割と急流で、ミネラルがあまり染み込まないまま水が出て来るため、軟水が多いのです。岩石の種類によっても水の成分が違って来ます。日本の地層で多く見られる花崗岩はミネラル含有量が少ないため、自然と軟水になるわけです。ただ、沖縄は地層が珊瑚礁でできているので、ミネラルを吸収して中硬水になります。ヨーロッパでは石灰岩などが多いので、水に含まれるカルシウム量が多くなるそうです。ドイツなどでは、一万年という永い年月を経て硬水になる水もあるので、年月も関係してきますね。
モンナージュ編集部:ヨーロッパでは硬水が多いのでしょうか。
山中:中硬水が一番多いですね。でも、ヨーロッパでは日本と基準が違い、カルシウムとマグネシウムだけでなく、ナトリウムやカリウムなども含めたトータルのミネラル含有量で計算しているんですよ。アメリカではTDS(ミネラル総溶解分)で計算しています。
モンナージュ編集部:何故日本は、カルシウムとマグネシウムに特化して水を区分するのでしょうか?
山中:元々、石鹸が溶けやすさを基準にして作られた「硬度」がそのまま飲み水に適用されたようです。飲み水に特化した表示基準は国内ではまだありません。
「硬度」を使用しているのが日本だけだったなんて、意外でした。しかし最近、酸素水やナノクラスター化した水、プラチナを加えた水など、様々な「機能水」が出回っており、もはや硬水や軟水というカテゴリーだけでは水をくくれなくなっているようです。ヨーロッパでは、フレバード・ウォーターという味のついた水が流行っているとのこと。そういえば、レモンやライムなどの味が付いた炭酸水が、日本では良く売れているようです。炭酸水には、何か体に良い働きがあるのでしょうか。
山中:炭酸水には、消化を助け、血行を良くする働きがあります。炭酸水は二酸化炭素なので、飲むと血液が酸素を欲しがり、その結果血行が良くなるというワケです。それと、乳酸を排出する働きがあるので、筋肉疲労の方の疲労回復にも良いですね。飲酒運転の罰則が強化されたので、お酒代わりに飲む方もいらっしゃるようです。ビール代わりに炭酸水を飲んで、ダイエットをなさる方もいらっしゃいます。ただ、潰瘍のある方は避けた方がいいでしょう。
モンナージュ編集部:販売している水には、賞味期限はあるのですか?
山中:ええ、輸入された水も日本の水も、蓋の部分などに記載してあります。ペットボトルに入っている水だと、ペットボトルの成分が溶け出したりしますので、賞味期限は1〜2年位で設定してあり、瓶のものだともう少し長いです。ただ日本の水は軟水で、微生物が好む鉱物が少ないので、保存には適しているそうです。 |