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モンナージュ編集部
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空、見上げていますか?
空、見上げていますか?
 最近、空を見上げていますか? そう聞かれて「Yes!」と答えられる方は、意外と少ないのではないでしょうか。毎朝脇目もふらずに駅を目指し、通勤電車では携帯をチェックし、仕事中はパソコンとにらめっこ。帰宅時は疲れて電車の中で眠ってしまう……。慌ただしい毎日の中では、自分で意識しない限り、なかなか空を見る機会はないもの。のんびり空を見ていたら、世の中の流れに置いていかれるような、時間を無駄にしているような気がして、焦ってしまうのかもしれません。
 そんな私たちに、「空の写真家」HABU(羽部恒雄)さんは、空を見上げる大切さについて語って下さいました。いつも空に向けてアンテナを伸ばし、空と対話するHABUさんならではのご意見を、たくさんお伺いすることができました。
 仕事の合間や電車で移動する途中、信号を待っている時などに、ふと空を見上げてみませんか? 紺碧の青空、飛行機雲、鮮やかな夕焼け……空は驚くほど多彩な表情を、私たちに見せてくれるはずです。
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オーストラリアに魅せられて

 様々な空の表情を独自の感性で捉え、「空の写真家」として知られるHABU(羽部恒雄)さん。オーストラリアを中心に、世界各地で空の写真を撮り続けています。定期的に開催されるHABUさんの写真展には、美しい空や雲の写真に癒しを求めて、たくさんの人々が訪れます。空をテーマにした写真集も数多く発表されており、書店の写真集売り場でHABUさんの写真集を目にしたことのある方も多いはず。HABUさんの写真には、思わず手に取らずにはいられない魅力があります。
 見る人の心を爽やかな空色に染めるHABUさんの写真。そもそも写真家になった理由は何でしょう? どうして空を撮り続けるのでしょうか? そのあたりの質問から、取材をスタート!

空、見上げていますか?
 

HABU:サラリーマン時代に広告を作る仕事をしていたのですが、たまたま出張で行ったオーストラリアに惹かれ、10年目にサラリーマンを辞めてオーストラリアに渡りました。当初はオーストラリアの気候の良さ、海や空の美しさ、縛られていない大らかで自由な雰囲気に憧れていましたね。3ヶ月間シドニーで英語学校に通い、その後半年くらいシドニーを起点にあちこち車で行き、景色や街並み、建物、人、コアラなどを撮っていました。

 その時点では、まだ空がテーマではなかったそうです。たくさんの写真を持って帰国するも、本格的な仕事に繋がることはなかったとか。その後広告・イベント制作の会社を興し、仕事のロケやプライベートで引き続きオーストラリアに行っては、写真を撮っていたそうです。

HABU:2年半経った頃、バブルがはじけて景気が悪くなり、お金のことばかり考えている自分がいました。それで、もう一度出直そうと思って、永住するつもりで家財道具を売り、39歳の時にオーストラリアに渡ったんです。
 最初シドニーに行き、その後テント生活をしながらクイーンズランドや西オーストラリアを旅しました。でも、その時もまだ「空」がテーマではなかったんです。自分の好きな風景は絞られて来ていましたが、「自分の探し求めている風景」を探す旅を半年ほどしました。

空、見上げていますか?
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空の写真を撮り始めたきっかけ

 オーストラリアに永住するつもりが、ビザの関係で1年程で帰国を余儀なくされたHABUさん。東京のご実家に戻ったものの、東京のペースとそれまで旅していたオーストラリアの田舎のペースは、まるで合わなかったそうです。埼玉県の静かな山の中で1年程暮らし、その間に撮りためた作品を1冊にまとめて出版社を回り、写真展を開催しました。そして、ある写真展で自分のテーマが「空」だと気付いたそうです。

HABU:友達とのグループ展だったのですが、限られたスペースだったため、空が主役になっている写真を集めて一つのテーマにしようと思い立ち、写真を7〜8枚集めて展示しました。その時に、自分がやりたかったテーマが「空」だったと気が付いたんです。

 以後、空をテーマにした写真集を発表し続け、写真展も各地で開催して、一躍HABUさんは人気写真家になりました。しかし、何故「空」にこだわるのでしょうか。HABUさんをそこまで駆り立てる、空の魅力とは何なのでしょうか?

HABU:僕が子供時代を過ごした中野区の鷺宮には、空き地や原っぱが多かったんですよ。そこは子供たちの遊び場で、寝っ転がってのんびり雲を見るのが日常でした。空を見ていると、子供の頃の懐かしい気持ちや、自由だった時代のことを思い出すんです。

 子供は雲を見て、動物に似ているとか、色々な形になぞらえます。そうやって自分でストーリーを作ることが、子供の想像力を育むのでしょうね。HABUさんの写真集の中にも、タツノオトシゴや天使に見える雲の写真がありました。

 

空、見上げていますか?

HABU:この前、ある写真集を小学校に寄付したら、すごく喜ばれました。子供たちが何も書いていない空の写真を見て、「美しい」「楽しい」と言ってくれた。これってすごくいいことだと思うんです。テレビゲームをやっているよりも、空を見てもらった方が健全ですよね。
 僕は、写真集の写真に題名を付ける時と付けない時があります。題名を付ける写真は、読み物とセットで紙芝居のように見て欲しいのですが、題名が付いていない写真は、勝手に想像してもらいつつ、その中で旅をしているような流れを作るんです。そうやって、想像力を働かせる手助けをする。僕がやろうとしていることは、想像力を刺激することなんです

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東京とオーストラリアの違い

 オーストラリアに魅せられたHABUさん。東京出身のHABUさんにとって、東京とオーストラリアの違いって、何でしょうか。HABUさんから見たオーストラリアの魅力とは?
 興味シンシンのモンナージュスタッフは、続けてHABUさんにお伺いしました。

HABU:東京の人って、みんなイライラしていますよね? 東京にいると、自分もそうなってしまうんです。例えば、駅の券売機で切符を買う時に、前の人が自分の順番が来てからお財布を出して料金を確認していたら、後ろに並んでいる自分は「用意しておけよ!」とイライラするわけですよね(笑)。ところが、オーストラリアで暮らしていると、そういうことがない。そういう空気感もオーストラリアの魅力です。
 それに、東京にいると、いつも何かしなければいけない気がするんです。オーストラリアを旅していると、そういう強迫観念がなくて、お天気次第で「今日ものんびりやるか」っていう感じなんですよね。

 写真を撮る際に一番大切なのは、「精神的コンディション作り」とHABUさんはおっしゃいます。東京からオーストラリアに行ったら、良い写真を撮れるようになるまで、2週間ほどかかるとか。それは何故でしょうか。

 

空、見上げていますか?空、見上げていますか?

HABU:最初の1週間は撮ってもロクな写真が撮れないんですよ。何故かというと、「撮ろう撮ろう」「上手く撮ろう」「売れる写真を撮ろう」と頭で考えちゃう(笑)。構図を考えてしまったりね。ところが2週間経って、自分が自然の中に馴染んでくると、無理矢理撮ろうとしなくなる。光や風や匂いを素直に感じられ、今まで気付かなかったことに気付くようになるんです。そうすると、勝手に向こうから「ここを撮りなさい!」って、風景が飛び込んで来るんですよ(笑)。
 東京での「イライラペース」のままオーストラリアに行って、そのスピードで撮ろうとしても無理がある。やっぱり雲の流れるスピードに自分の体が合ってこないと、後で発表したくなるようないい写真は撮れないですね。

 自然に自分のペースを合わせ、作為的に撮るのを止めると、自ずとよい風景が見えて来る……HABUさんならではの、自然との付き合い方ですね。
 しかし、何故ハワイやバリではなく、オーストラリアなのでしょう?

HABU:オーストラリアは観光地じゃないんですよね。観光地は人が多くて物価も高く、有名で誰もが撮り尽くした景色が多い。そうではなく、僕は自分だけの風景が欲しいんです。よく日本で、写真を撮る人が同じものを撮るために三脚をずらっと並べている光景があると思いますが、あれを僕は絶対したくない。人と同じ瞬間にシャッターを押し、人と同じものを撮って、何が面白いの?って思う。写真は自分が美しいと思うもの……つまり「自分」を探しているところがあるので、オリジナリティーが大切だと思うんですよね。

空、見上げていますか?
 
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想像力の扉を開く空

 東京ご出身のHABUさんですが、あまり東京の空の写真はお撮りにならないようです。やはり、東京の空は汚れているのでしょうか?

HABU:東京の空は水蒸気や塵、排気ガスなどで曇っているんです。夕立の後や台風の次の日、風が強い日は撮るんですけどね。石垣島などは、真っ青な空に真っ白な雲ですが、東京だって工場が止まって車も少なければ、真っ青なはずなんです。

 東京の空も本来は綺麗なのですね。でも、東京の人が空を見上げないのは、空が曇っているからだけではないようです。日々仕事に追われ、情報に追われて生きている東京の人にとって、空を見上げるメリットとは何でしょうか?

HABU:僕はいつも「空は想像力の扉を開く」と言っています。雲を見て「何かの形に似ている」などと、自分の意識で何かを感じる、想像力のスイッチを入れる。現代に生きていると、情報って入ってくる一方じゃないですか。ところが雲を見ていると、中から自分の思いや考えが沸いてくるんですよ。自分の頭と心が対話しているようなところがある。
 空にしても雲にしても、見て何を考えるかなんて、その人の勝手なんですよ。空や雲には答えはないし、「こうでなくてはいけない」ということはないでしょう? それは純粋に自分の心の中から出て来た感情や想いであって、今の日本ではそういうふうに自由に想像する機会って、あんまりないんですよね。
 もちろん花でもいいのですが、空や雲は誰の上にもあるし、見上げればすぐそこにあるわけですから、それを見て勝手なことを想像しながら散歩するのは気持ちいいことだし、一番簡単にリフレッシュできる方法だと思います。

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「あっ!」の瞬間を追いかけて

 HABUさんの写真に写されているのは、いずれもありのままの、生き生きとした自然の表情。美しい空や風景と共に、浜辺を歩く鳥、楽しげに走り回る子供たちなどが写されています。どのようにしたら、そんな新鮮な写真が撮れるのでしょうか。

HABU:今、『海は空を映す』という写真集の発売を記念して、写真展をやっているんです。ずっと空や雲がテーマで来たので、たまには違うテーマで海の写真集を作ろうということになり、「海は空を映す」をテーマに、過去20年分の写真の中から今の気分で写真を選んでみました。
 そうすると、自分が無意識のうちにこだわっている写真のポイントが見えて来たんです。普通、写真の学校では「風景は三脚を立てて撮らなければいけない」「絞りはいくつまで絞らなければいけない」などの、色んな「してはいけないこと」を教えるんですよ。でも僕の写真は「してはいけないこと」ばっかり(笑)。水平線が斜めだったり、ブレていたり……でも、それで逆に臨場感や、瞬間の面白さが出たりするんです。

 そう言ってHABUさんが見せて下さった写真には、水滴がレンズについていたり、ピントが合っていなかったり、構図が斜めになっていたりするものも確かにありました。でも、どれも味わいがあって、生き生きしているものばかり。写真から、その場の音や風、匂いまでもが伝わって来そうです。
 ブレていても、ピントが合っていなくても、HABUさんにシャッターを押させてしまうもの……それは一体、何なのでしょうか。

空、見上げていますか?
 

HABU:僕は「あっ!」と思った瞬間に撮るの。構図を考えて、三脚をいじって撮るんじゃなくてね、ほとんど「手持ち」なんです。三脚を立てていたら、鳥が砂浜を歩いている写真なんて撮れないんですよ。
 風景写真は「瞬間を撮ること」なんですけど、頭の中で構図を考えてからシャッターを押すと、意外性って絶対なくなるんです。誰が撮っても同じ写真になってしまう。最近、自分の写真を見ていて気が付いたのは、「やっぱり瞬間を追いかけているんだな」っていうことです。波一つを取っても、一番いい形の波を探してその瞬間を撮りますし。雲も自然まかせですから、納得のいく雲に出会うことって、本当に稀なんですよ。雲は瞬間が勝負で、「あっ!」と思った時にシャッターを押せるか押せないかが命。ありとあらゆる時間に空を見上げて、チャンスが来た時にフィルムが入ったカメラを持っているように、空に向けてアンテナを張っています。

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アンチエイジングと空

 「空は想像力の扉を開く」「『あっ!』と思った瞬間に撮る」……素敵なキーワードが出て来ました。確かに空を見上げていると、清々しい気持ちになったり、思わずはっとしたりすることがありますよね。そういう時に、想像力や感性が磨かれていくのかも……。
 綺麗な空をのんびり見上げることって、アンチエイジングとも関係があるのでしょうか。HABUさんのご意見をお伺いしてみました。

HABU:空って、ものすごく身近にある手つかずの大自然なんです。ありのままで、人の手の加えようがないものが身近にあるんだから、そのエネルギーやバイブレーションを感じて欲しいですね。
 電車に乗ると、必ずみんな本を読んでいたり、携帯をいじっていたり、何とかしてその時間を潰そうとしているじゃないですか。僕は昔から電車に乗ると、ドアの近くに立って外を見ているのが好きだったし、今もそうなの。そういう時って、自分の心と頭が会話している時なんです。自分のことや、色んなことを考えている。外から押しつけられる情報じゃなくて、自分の中から出て来た何かと、心や頭が会話する。そういう時間を、現代人はもっともっと持つべきじゃないかと思うんですよね。

 確かに電車の中を見回すと、携帯や本に目を落としている人が多く、車窓から空や景色を眺めている人って、少ないように思います。時間を無駄にしないよう、常に何かをしようとしてしまうのでしょうね。
 それは旅行に行っても同じ。「せっかく旅行に行ったのだから、あちこち観光しよう」と、ついついスケジュールをぎっちり組んでしまいがちですよね。でも、HABUさんはそれに「待った」をかけます。

空、見上げていますか?
 

HABU:例えば自然の中に行ったら、ただ自然の中にいるだけでいい。いて何かを得ようとするのではなくて、ただあるがまま、そのまま今ある風景とか木々とかを感じるだけでいいんです。それだけで随分意識が楽になる。そういうところに行ってまでバーベキューとか観光とか、「何かしなくちゃいけない」じゃなくていい。 僕は旅先では何もしません。海辺に行っても何もしない。ただ散歩して、写真を撮って、ぼーっとするだけ。テントで朝ご飯を食べる時の会話が「夜には何を食べようか?」なんです(笑)。

 

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空の写真は、自分の心を映す

 たまに旅行に行くと、日常と比べて時間がゆっくり過ぎるような気がしますよね。自然の中に身を委ねていると、心身がリラックスし、浄化されていくように感じた方も多いと思います。自然の中で何も考えずにぼーっとする時間は、人間にとってとても大切な時間なんですね。

HABU:そういう時間の過ごし方は、手近でもできるんです。本格的に空を見たいと思ったなら、多摩川や荒川などの河川敷にいけばいい。そこで「あっ!」と思う風景に出会ったら、デジカメでも携帯でも何でもいいので、写真を撮ればいいんです。自分が楽しめれば、それでいい。自分が決定的瞬間だと思ったら、それは決定的瞬間なの。レベルの問題じゃないんです。

 今回、せっかくプロの写真家のHABUさんに取材をするのだから、素人でも綺麗な写真が撮れる構図や露出などのコツを教えて頂こうと思っていたのですが、どうも大切なのはそういう技術的なことではないようです。

HABU:空を撮るということは、自分の心を撮るということだから、「あっ!」と思った瞬間を撮らないと。頭で考えちゃダメなんです。素直な自分になって撮って欲しいですね。もちろん僕はプロだから、上手く撮らないと商売になりませんよ(笑)。だけど大切なのは、上手く撮ることじゃなくて、気持ちや心が写ること。皆さんが写真を上手く撮りたいと思うのなら、本でも読んで勉強すればいいんです。でも、構図や露出が完璧な写真より、自分が「あっ!」と思った写真の方がいい。自分の気持ちや心を撮るんだから、人と違って当たり前なんですよ。

 「空を撮るということは、自分の心を撮るということ」……とても深い言葉ですね。楽しい時は楽しいように、落ち込んだ時は落ち込んだように、その時の心を反映して空は写るのでしょうか。毎日空を見上げて、「あっ!」と思ったら写真を撮る。それを繰り返していると、その写真を見るだけで、その時の自分の気持ちが思い出せるようになるかもしれませんね。
 知らず知らずのうちに凝り固まってしまった心を優しくほぐしてくれる、一番身近にある大自然、空。1日のうち、ちょっと立ち止まって空を見上げ、自分の心と対話してみませんか?

 取材にご協力頂きました
山中亜希さんと 写真家・HABU(羽部恒雄)
1955年東京都中野区生まれ
サラリーマン生活10年目にたまたま出張で行ったオーストラリアに一目惚れ。
32歳でドロップアウトして写真家をめざす。
以来、「空の風景」をテーマに各地の風景を撮影、数多くの写真集を発表。
定期的に写真展を開催している。
ホームページ >>

HABU写真展「海は空を映す」
6月20日(金)〜6月25日(水) 富士フイルムフォトサロン仙台
仙台市青葉区一番町4-6-1 仙台第一生命タワービル1階
※入場無料

7月4日(金)〜7月10日(木) 富士フイルムフォトサロン大阪 スペース1
大阪市中央区備後町3-5-11 富士フイルム大阪ビル1階
※入場無料

詳しくはこちら
http://www.fujifilm.co.jp/photosalon/

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