トップページへ












自分の歳は自分で決める。成熟世代のアンチエイジングサイト”モンナージュ” 最新号 BACK NUMBER
メッセンジャー
執筆者:モンナージュ編集長 寺山いく子
食からアプローチするアンチエイジング
フード
「肌や体をつくるのはやっぱり食べ物だから。  美容と食の絶妙なバランス関係とは?」
「肌や体をつくるのはやっぱり食べ物だから。  美容と食の絶妙なバランス関係とは?」
 今や健康補助食品とか特保(とくほ)、サプリメントに至るまで健康をキーワードにした「口に入るもの」はさまざま。添加物や着色料などを意識する人は増えつつありコンビニエンスストアでも「健康」は重要な戦略の一つとなっている。
これから先に紹介するのは、美容業界から食産業に飛び込んだ、ある女性との対談だ。モンナージュでも普段から考えていることが次々に繋がり、食だけではない文化論まで話は広がって・・・
早速フレッシュジュースが!
2 早速フレッシュジュースが!  
1

化粧品のシェフは研究員たち

「研究所のビーカーワークとシェフのキッチンスペースは、実は一つのラインで繋がっているのではないかと、ピンときました。」と語るのは、某食産業界に飛び込んで、1年半近く経つ、鈴木小夜子さん。私と同世代の女性である。

「食の世界というのは、まさに職人の世界、というのが第一印象でした。職人の力技で、味そのものがどうにでもなるマジックのよう。でもこれはファッションととても似ているかもしれない。デザイナーさんがいて、クリエイトしていく中で瞬時に創造されていく形・色・・・もともと私が化粧品業界に携わるようになったのは、カラーからだったので、他の方とは少し見方が違うかもしれませんが。」

化粧品は、どちらかというとファッション産業の中にありながら、マーケティング力がかなり要求される世界だ。そこに感性が響いて、独特の世界観が繰り広げられている。

「でも例えば全く同じ成分でも、乳化の仕方、回転数、分散状態などの違いで、別物が仕上がってくる。それはまさにシェフのような仕事ではないですか!カラーからこの業界に入り、最初は口紅の処方に携わっていたので、ゴムベラを使ったり、ビーカーでいろいろなものを混ぜ合わせたり・・・・色素の入っていないファンデーションは、まるで小麦粉みたいですし、マスカラの原液は、今、思い出せば、イカ墨?!のような気もします。ですから食の世界に入ってからも何故か違和感はありませんでしたし、ビジネスに川上と川下があるならば、それを両方見られたのはむしろラッキーだったと思いますね。」

確かに、もう少しトロミのある感触にしたい、とか、少しだけサラッと感を増して・・・など、スキンケアに関しても、とても舌の感触と似た表現が多いことに気づかされる。それを司るのが研究員の知識と感性なのだから、こういった見方は、とても面白い。マーケティング畑の人ではきっとこうはいかないだろう。

対談中風景。時には身振り手振りで
  2 対談中風景。時には身振り手振りで
2

あるメイクアップアーティストとの出会い

「トム・ペシューという有名なメイクアップアーティストがいます。彼はベースづくり(肌づくり)に1時間かけるんですね。その後、メイクの施しがたった15分ほど。きらめくパールの輝きがベースによってこんなに左右されるのか、と思うほど仕上がりの差は歴然でした。その時に、ベースをつくるものは、肌=スキンケアかな?と思い、次のステップではスキンケアに深く関わりました。スキンケアをどうすれば肌を維持、または美しくできるのか?というところで、その次にエステティックへの興味が・・・そしてまた移ったのです。」

化粧品業界をひとくくりにしてはいけない。そうされがちなところではあるが、化粧品会社だって
ドクターズものから自然派にラグジュアリー、通信販売などなど、エステティック経営会社、原料会社、化粧品の研究所、また化粧品でもメイク・ファンデーション・スキンケア・フレグランス・ボディ・・・・と専門のカテゴリーがあり、社内の部は経営・マーケティング・トレーニング・セールス・ディストリビューション・工場・プロダクト・コミュニケーション等々細部にわたる(もちろん総務だって経理だったある)ので、どこでの業務が主だったかによって、見方がいろいろあるのも、もっともな話だが。

「そうこうしていくうちに、気づいたのは、エステティックでスキンケアをされている人の中にも、年齢相応、またはそれ以上の肌ツヤ感や輝きがある人とそうではな人がいる、ということでした。では肌をつくるものって何なんだろう?そう思ったときに感じたのは、人の体や肌をつくる基本は"食べ物"にあるのでは?と。自分が自然に導かれてしまった感があるのですが、日本の食というもの、現状はどうなっているのだろう?と、俄然、興味がわいてしまったのです。」

化粧品という外見に従事していたものにとってみると、その当時は、やはり内側からのアプローチというのは情報や知識に乏しくなりがちではある。ただ20代・30代と、化粧品業界という独特な世界を駆け抜けつつ、自分自身の体調や年齢の変化に伴って健康を意識しはじめた時、初めてその重要性に気づき、内側への興味が俄然、高まる!という感覚には非常に共感する部分がある。

取材終了後のブランチでニンマリ
2 取材終了後のブランチでニンマリ  
3

そして、食の世界へ

「デパ地下、大人気ですよね。"レストラン"がファッションでいうオーダーメイドだとすると、"お惣菜"はプレタポルテ、とでもよべるでしょうか。最近の新宿伊勢丹さんのリニューアルを見てもわかるとおり、"食"をファッションとして魅せると、楽しみ・好奇心・豊かさ、がより意義のあるものになっている気がしてなりません。もっともこれは女性の感覚で、感性で瞬時に理解してくださいますが、男性の感覚では「可愛い、おいしそう!」がなかなかストレートに伝わらないこともありますね。そういった意味で、残念ながら食の世界は、まだまだ男性社会で、女性独特の "かきたてられる感情" を理解する業界ではないかも。何しろ化粧品は女性の発言力は絶大でしたので(笑)、極端な世界から日本のスタンダートな世界に入っただけのことかもしれませんが。でも、いろいろな隙間や変えていくところはたくさんあるとも思いますよ。」

ファッションと食を同じ線上で客観的に見ることのユニークさというか、面白さ。しかし、時代の消費者は食もファッションの一部のように、楽しんでいるところが確かにある。話は続く。

「では双方の違いは何かというと、ファッションの場合だと布や素材といったものは触れる・触るなど確かめられますが、食の場合は "食べてみないとわからない" 世界です。だからこそ信頼性や安全性が求められるものですし、今までの経験から百貨店ビジネスを通して見てきたものが、今になって役に立っていることが多かったりもしますね。BSE事件以降、信頼性や安全性は消費者が意識するものになりました。加えて少量でいいから本当においしいものが食べたい!という消費者も増加していると確信しています。考え方としてはヨーロッパ的であって決してアメリカ的ではない。量ではなくて質、という概念が、本来、日本人にフィットするのだと思います。アメリカ型の大型スーパー導入から始まり、大量消費が良い時代だった頃を通り過ぎて、皆が疑問を感じてきている。老いていく体を見据えながら、まだまだ元気でいられる、という砂の粒を重ねていくような作業と向き合うには "食" を意識せざるを得ないでしょう。そこに女性ならば美しくありたいという気持ちも重なって。」

暗黙の信頼関係というのがあるとするならば、ファッションはブランドイメージ=信頼、安全なのだろう。それがあるから、何百年という歴史が積み重なる。

「トマトをひとつ、例に出してみます。生産者が自然の流れにそって手間ひまかけてつくったものと、大量消費の利益優先でつくられたもの、この違いは明らかですよね。もちろん、手間ひまかかった分は価格として反映されます。でも生産者の顔が見える。利益優先ではなく、大事に育てられた素材を出してくれるところがうれしい。こういった動きが最近、消費者ニーズとしてあるのか、関係者の気づきなのか、双方の歩み寄りなのか、意識を持って、取り組まれている時代だと思うのです。」

モノに溢れる事に幸せを感じるというアメリカ型ではなく、原点回帰をして遠回りしたかもしれないけれども、自分の出来る範囲で選択できる知識を持つ。結果的に豊かさや安全性に繋がるはずだ。

4

作り手も消費者も

美菜ブランチメニュー
2 美菜ブランチメニュー  
「今、農業のスタイルは変わってきています。直接、消費者(エンドユーザー)と対話できるのがいいという生産者が、新しい流通を開拓してきている。過去の作り手側の罪悪感からでしょうか。大量規格製品や消費があるからと思ってやっていた無理な生産は、結果的に不幸を招いています。自然な流れで無理なくつくるのは、まだまだ潤うビジネスにはならないけれども、ユーザーが生産者と共に歩む事も必要なのではないでしょうか。この業界に入って、生産者側が見えるという面も、とても勉強になります。毎日、安全を買うために高い品物を食べるのは、正直難しいかもしれませんが、賢い消費者として "選べる目" を持っていることが大事だと思うのです。お腹一杯食べる事ではなく腹八分目にしておく、必要なものだけ自分の手元にあって満足だという人間らしさを取り戻す、そんなことが必要な時代なのではないかと思うのです。トマトの話に戻りますが、熟す前に青いまま収穫された円熟味のない味気の薄いトマトが店頭に出回る頃にはなんとなく赤くなりそれを買っている、のではなく、手間ひまかかったおいっし〜いトマトを少しずつ、有難くいただく、ということです。」

せっかく生きるならば、キレイに生きたい、特に女性ならば見栄えも気になる。食べ物が体や肌を作るのだ。だからこそ、美しくありたければ賢い消費者として、食べ物を "選べる目"を持つことの重要性を説く鈴木さんのお話、まなざし、表情は実に生き生きとしている。

バブルを経験した40代が、これから目指す道
 
5

バブルを経験した40代が、これから目指す道

「私達はバブルのおかげで、いい意味でも良くない意味でもいろいろな経験を積みました。そして、少しでもいいもの、量ではなく質というヨーロッパ型が日本でフィットすることにすでに気づいています。土地の大きさ・近隣の家との距離・街のお店屋さん(専門店)の大きさなど、まぁ、ライフスタイル全般を見渡せば、すぐに気づくことですが、それと相まって、デパ地下の存在やお取り寄せなど、真に良いもの・おいしいものを目ざとくかぎつける女性達のレベルの高さもあります。もしかしたら、東京は寄せ集めになっていて、本来のものは地方にありき、かもしれませんが、"安全"という意識が今、全国的にとても高い時期ではないかと思っています。話は少し変わりますが、統合医療が、ここ数年で明確に打ち出されてきています。その中でも食はとても大事なのは、皆さんご存知の通りで、医食同源ともいいますが、日本は明治時代に西洋医学をお手本とし、漢方医を排除した時期がありました。その結果、和漢医が表舞台から追いやられてしまった。歴史の中で通らなければいけなかったとすれば、そこから新たに学ぶものがあるはずです。」

全く同感である。本来の日本人の舌の敏感さを取り戻さねば!次世代に渡っても。

「余談かも知れませんが、私、茶道をしているので、明治・大正生まれの女性達にお目にかかる機会があるのですが、その方々のなんと謙虚で凛としていることか。そして豊かさや深みがあるのです。季節感・食文化など、残念ながら戦後、私達に引き継がれなかったものが、そこにはあります。もっと伝承し引き継がなければ、日本の食文化は一体どうなるのでしょう。」

食べるのが精一杯の時代に引き継ぐどころではなかったであろう。でも日本人が培ってきたものを潔く捨てすぎたのかもしれない。明治時代の文化の転換期にお城を壊し、戦後人々の価値観が変化した際にも食を捨て、次世代に伝えなかった。また潔さが美徳であった時代の男性は戦後のビジネスが世界標準のビジネスと、その頃の潔さとのギャップが男性を変えてしまったのかもしれない。今、必要なのは獲得する事ではなくて謙虚さかもしれないと思う。待つ事の大事さ。周りを見て、気づく事。全体の中の一人。丸く収まる術。年寄りの知恵。それが、鈴木さんの見たお茶の世界、「虚であれば益を得る」世界なのではないだろうか。

「本質を感性で取られることができるのが食の世界です。生産者側の顔が見えるのが、化粧品の工業規格製品との違いかもしれませんね。バブル後、お金だけでの評価ではなく、日本人の立ち振る舞いや文化性が世界で評価されつつある今、日本人はもっと自信を持てると思います。私自身、なんとなく日本人として恥ずかしい、という気持ちではなく、本質を認めてもらえた、というのはうれしいですから。」

化粧品のシェフは研究員たち
 

「賑やかな食卓の楽しさは伝えたいですね。ただ団塊世代はアメリカ型。アメリカンファミリーに憧れて、大きい冷蔵庫と大きいテレビとリビング。経済至上主義=大手スーパーの手法で、モノを消費し囲まれることが豊かさと贅沢の象徴、そして仲のよい友達親子・・・これは果たして日本人の本来の姿でしょうか。お友達感覚で社会に出て行けるのでしょうか。日本人としての食卓の重要性や社会性はどうなっているのでしょう。小さい頃の記憶の片隅にある、箸の上げ下げから残さずきれいに食べる事・・・やかましい、と思うほど口うるさく言う人、が今、不在なのではないでしょうか。すべて昔に戻るのがいいのではなく、昔のよいところまで捨ててしまったことに反省点を持ちたいですね。
まさに食は、文化なのですから。」

「最後になりますが、栄養をきちんと吸収するには腸内環境が整っていることが大事。化粧品は心がキレイな事が重要です。」

吸収するところは肌や口ではなく、本当は内側にある。
エンドユーザーは脳みそもどんどん賢くなって、選べる目を持つべき。お金や薬、病院が国を支えるのではない。支えるのは人間なのだ。さらに突き詰めれば、どの業界も人間力なのではないか。食品衛生法の中で仕事をする、厚生労働省の中で仕事をする、事なかれ主義ではビジネスも志も成り立たないのだから。

これに加えて、人間として生きていくツヤとは、心の豊かさも不可欠だろう。まるで連想ゲームのようだけれど、心を満たしてくれるもの、それはこれからは量より質の時代かな、と実は私も感じていた。そしてトマトの話にも妙にうなづける自分がいる。

「私、実はね、コチコチに頭のカタい研究スタッフとやりあったことがあるのです。

  化粧品は肌に緩和なる作用をもたらす。

鈴木小夜子さんと
  2 鈴木小夜子さんと

 これは薬事法の中の一文で、もちろん法律の基準は国によって違いますが、ヨーロッパなどでは化粧品の効能効果は、すでに真皮層まで表現できるんですね。でも日本は緩和なる作用だから、角質層までだし、緩和であって効果ではない、と。だったら誰も買わないじゃないですか(笑)。こういった法律の中でビジネスをしていくことで法律の根本を考えたりしたこともあったくらいです。」

コスメ・エステ・フード → さて次は?
「この年齢になって勉強させていただける環境にあることに感謝しています。教えてもらえなくなったら、終わり、のような気がして。今はまだまだ修行の身なので、フード産業での関わりの中で、様々な事を吸収していきたいと思っています。」

ますます生き生きと語る鈴木さんなのであった。

▲ページのトップに戻る
 
 
 
  サイトマッププライバシー・ポリシーサイトのご利用に際して