モンナージュ:
まず、冷え性のメカニズムを教えて下さい。
渡邉賀子先生(以下渡邉先生):
手や足、下半身などの体の一部や全身が冷えて、それを苦痛に感じる状態を冷え性といいます。冷え性には多角的な要因が含まれているため、単純に「血流が悪くて冷えている」だけでは説明できません。
食事を食べて体内で熱を作り、血液でその熱を配るという体温調節のメカニズムがあるのですが、ダイエットをすると発熱量が少なくなり、熱が供給されなくなるため、若い女性の冷え性の大きな原因になっています。若い女性では、断然やせ型の方に冷え性が多いですね。それと、食べ物をエネルギーに変えるというルートから考えると、ストレスによる食欲不振や胃腸虚弱も冷えの原因。
また、熱は代謝の過程で主に肝臓で作り出されるのですが、実は熱を一番作り出しているのは、筋肉による運動なんです。一日の熱エネルギーの約6割は筋肉が作り出しています。なので、運動不足も冷えの原因になります。冷え性は女性に多いと言われますが、これは女性は男性に比べて約10%筋肉量が少ないことも一因です。
このように、食べ物と運動は熱を作り出す大もとです。そうやってできた熱を血液で体内に配るため、サラサラした十分な量の血液が、体の隅々にまで流れているというのが理想的な状態です。それを阻害するものは、全部冷えの原因になり得るわけですね。末端の新陳代謝が落ちる貧血や、漢方で「淤血(おけつ)」と呼ばれるドロドロの血液、血管が硬くなる動脈硬化も原因になります。血液を送る圧力のことを考えると、心臓の病気や低血圧も関係してきますね。
モンナージュ:
冷え性と自律神経失調症には関わりがあるのでしょうか?
渡邉先生:
末梢血管を開いたり閉じたりしているのが自律神経であるため、冷え性と自律神経失調症が同義で使われていた時代もありました。今は、冷え性は病気の予備軍と認知されましたが、それまでは冷え性は体質的なものか、自律神経失調症の一つとして考えられて来たのです。
交感神経は「闘う神経」で、ハッとした時に末梢の血管を閉めて、体幹部に血液を集めます。そのため、手足が冷たくなるのです。逆にホッとするような環境下では、交感神経の緊張がほぐれて副交感神経にスイッチし、末梢の血管が開いて血液が流れます。血流の実験をしていると、嫌な上司の名前を言っただけでも、ぎゅっと血管が縮まってしまうのですよ(笑)。自律神経は、何かがあった時に勝手に動いてくれますが、とても精神的な影響を受けやすい。だから、ストレスがかかると血管が閉まり、冷え性にもつながるというわけです。
モンナージュ:
自律神経の乱れからくる冷え性というのは、最近多いのでしょうか。
渡邉先生:
そう思います。本来日本人は四季に適応していて、夏に比べて冬の方が1割くらい代謝が高いのです。ところが、今は冷暖房で一年中同じような気温の室内にいるため、1割の代謝の変動がなく、冬も夏も同じような代謝になっていると想像されます。その割には、室内と室外の気温差が大きいでしょう。冷暖房のおかげで快適なかわりに、夏と冬に対する適応能力が落ち、更に室内と室外の極端な温度差に適応しなければならないので、自律神経的にも代謝的にもバランスを崩す要因がたくさんあります。現代人は暑さにも寒さにも弱くなって来ているんですね。
モンナージュ:
ストレスというと精神面を考えがちですが、温度差は体にとってもストレスになるんですね。
渡邉先生:
その通りです。冬より夏の冷え性が辛いという女性も多いですね。電車の中やオフィスなどは、背広にネクタイの男性に快適な温度になっていますが、半そでにミニスカートの女性にとっては冷蔵庫に入っているようなもの。冷え性は現代病的な側面もあると思います。
モンナージュ:
冷え性は昔からあったのでしょうか。
渡邉先生:
約70年ほど前の文献にも、冷え性についての記述があったようです。しかし、女性の「妻」「母」という古典的な役割に加えて仕事もあるため、現代の女性は現代特有のストレスにさらされているのです。また、生活の変化による影響も大きいでしょうね。本来、朝体温が一番低く、朝ごはんを食べることで体温が上がり、夕方に体温を外に出してゆっくり安眠に入る、という流れがあるのです。ところが現代では、夜遅くまで起きていて、朝起きられなくて朝食も食べずに出かけ、体温が低いまま活動性のにぶい午前中を過ごし、夕方にようやく体温が上がって来て、興奮したまま眠れない、という悪循環になっているのです。
モンナージュ:
ん〜、耳が痛いですね〜〜(笑)。 |