金属と同じように、ヒトの体も酸化するのをご存じでしょうか? とは言っても、金属の酸化のように「サビ」というかたちで目に見えるわけではありません。でも、目に見えず、自覚がない方が恐ろしいのです。
ヒトの体にとって、サビとは「細胞を破壊する」ことですが、サビの原因となるのが活性酸素などの「フリーラジカル」です。これは通常の呼吸によって発生し、体内では殺菌作用などの重要な役割も担っています。人体にとっては有益な面もあり、少量のフリーラジカルは必要なのですが、過剰に発生すると有害なものに変わってしまいます。
フリーラジカルには強い酸化作用があり、周囲の物質から電子を奪いとる力を持っています。そして最初のターゲットになるのが、細胞膜の重要な構成要素である「脂質」です。細胞膜は、細胞の外から必要な栄養を取り込む一方で、老廃物を外に捨てる役割があります。ですが、細胞膜の脂質がフリーラジカルによって酸化されると、細胞は正常に働かず、老廃物を捨てられなくなります。動脈硬化は、そうした細胞が体のあちこちで増えることによって生じる病気の一つです。
人体にある臓器、組織のうち、もっともサビに弱いものの一つは脳神経細胞です。脳神経細胞は、ヒトの生涯を通して細胞分裂して増えることがなく、一つの細胞が収縮と弛緩を繰り返す「長寿」の細胞です。そのため、サビは大敵なのです。
健康な人でも、脳神経細胞は毎日10万個単位で死んでいきます。年をとるごとに脳の働きが衰えるのは、そのためです。脳細胞の活動を支えているのはブドウ糖と酸素ですが、それらを確保するために血管が高度に発達し、大量出血した場合でも、脳には最後まで血が流れる仕組みになっています。
それなのに脳細胞は酸素不足に非常に弱く、無酸素状態が常温で5分間続くと、細胞は死んでしまいます。つまり、脳神経細胞は動脈硬化の影響をもっとも受けやすく、動脈硬化が進めば、脳出血や脳梗塞といった脳の病気を引き起こしてしまうのです。
人間にとって一番大切なものの一つである脳神経細胞が、もっともサビに弱いとは皮肉ですが、だからこそ体をサビさせないようにしなければいけないのです。 |