日本国民の4人に1人が罹患しているといわれる国民病、「花粉症」。春になると、あちこちでクシャミをしたり、鼻をかんだりしている姿が見受けられます。この花粉症、「スギが抗原(アレルギーの原因)だから、2〜4月の間だけ薬を飲めば大丈夫」などと自己判断していると、思いも寄らない落とし穴に落ちることに!
一度スギ花粉症になると、次々と連鎖反応を起こして、ヒノキ、カモガヤ、ブタクサ……と抗原が増えていく。これが最近よく耳にする「多重花粉症」です。「自分はスギ花粉症」と思い込んでいる方の多くが、実はヒノキ花粉症も併発しているのだとか。
「花粉症コップ」の水をあふれさせないためには、何をすればいいの? 一度あふれてしまったコップの水は、元には戻らないの? 多重花粉症の連鎖を止めるには、どうしたらいいの? 画期的な花粉症の治療法「粘膜一本注射療法(アレジオ療法)」を推進し、花粉症の啓蒙活動を続ける「アレジオ銀座クリニック」院長の呉孟達先生に、お話をお伺いしました。
春の訪れと共に現れる日本の国民病、花粉症。風物詩のひとつとなった感さえありますが、ここ数年で更に患者が増えたような気がします。でも、昔は「花粉症」という病気自体、なかったような……?
そもそも、花粉症はいつ頃からできた病気なのでしょうか。まずは花粉症の歴史から、呉孟達先生にお伺いしてみました。
- 呉孟達先生(以下、呉先生):進駐軍によってブタクサが持ち込まれたことが、日本における花粉症の発端と言われています。日本で初めてのスギ花粉症は、杉並木の多い日光市で1963年頃に確認されました。それ以降スギ花粉症に関する認知度が高まり、今日に至ります。
スギ花粉は、アレルギー反応を引き起こす「抗原(アレルゲン)」の量によって、症状の発症がかなり左右されます。戦後、国の植林政策によって1960〜1970年代にスギの植林が一斉に始められたのですが、本格的に花粉が飛び始めたのは、20〜30年後の1990年代。木が育って、大量に花粉を飛ばすようになったためです。
木材としての汎用性が高いため、1990年代の前半頃まで、スギの植林は推進されてきました。しかし戦後、日本の復興に伴って、外国から安い木材を輸入するようになりました。そのため、植林のアフターケアが一切行われていないことが問題です。花粉が大量に飛散する状況は、まだまだ続きそうです。
花粉症患者は、特に都市部に多いように思われます。花粉症の要因としては、大気汚染もあるのでしょうか?
- 大気汚染物質は、スギ花粉の「アジュバント(増強物質)」としての役割を果たします。スギ花粉の抗原性を1とすると、スギ花粉に大気汚染物質が付着することで、抗原性の威力は1.2〜1.5倍まで増してしまう。様々な環境変化に伴い、スギ花粉症患者の人口増加に拍車がかかっているのです。
近年、花粉を飛ばさないスギも開発されているようですが……?
- ええ。しかし、スギ花粉の飛散量は、そう簡単には減りません。日本の森林面積は国土の7割弱ですが、その中でのスギの植林面積は12%、植林面積全体の中では18%と、非常に多い。木としての利用価値が高いので、中国では今でも花粉を飛ばすスギをどんどん植林しています。ということは、中国人は日本人と同じ花粉症への道を辿ることになります。何より脅威なのは、黄砂と同様に中国のスギ花粉が日本に流れて来ることです。
国内だけでもスギの木が多いのに、中国からも黄砂と相まってスギ花粉がどんどん飛来するとは、花粉症患者にとって頭の痛い話です。どうやら、ひとつの植物を集中的に植えると、アレルギーの原因になるような気がしますが……。もしかしたら、植林しない自然な状態では、花粉症は発症しないのでは?
- その通りです。日本の人口が増えすぎて、生態系のバランスが壊れていることも一因です。もしも日本の人口が3〜4千万人なら、需要がないので、スギの植林政策も行われなかったことでしょうね。花粉症は、人間が自ら作ってしまったようなものかもしれません。
どうやら、スギ花粉だけを悪者にするのは間違っているようです。きっと人の手が極端に入ると、生態系のバランスが壊れるのでしょう。新しい病気は、「生態系のバランスが崩れている」という、自然界からの警鐘なのかもしれません。
- 日本人が清潔になったことも、花粉症と関係があります。戦後まで「アレルギー」という病気はほとんど見られず、体の免疫系統は主にバイ菌やウイルスを退治するために使われていました。ところが、日本は戦後復興に伴って物質的に豊かになり、どんな医薬品も手に入る時代になりました。それによりバイ菌と共存・共生するような環境はなくなり、余った免疫系統の作用は、アレルギー原因物質を一生懸命退治するようになりました。これも、これも花粉症増加の大きな要因の一つです。
花粉症は様々な要因が複雑に絡み合っていて、一筋縄ではいかないようです。多方面から考えて、対策を取る必要があるようですね。
今や日本人の4人に1人、3000万人が罹患者の花粉症。今後も、患者数は増え続けるのでしょうか。
- 最新(2008年)のデータでは、日本人の26.5%が花粉症罹患者です。ここ10年で倍増してきており、更に最近の統計では2040〜2050年までに、1.6倍くらい増加するだろうと予測されています。最悪、日本人の7割が花粉症を発症するのではと、危惧されています(残りの3割は、花粉症を発症しない遺伝子を持っているとのこと)。
花粉症は、よく「コップの水」に例えられます。徐々にコップに水が満ちてきて、それがあふれた時に花粉症を発症する。分かりやすい例えですが、実際にそうなのでしょうか。
- 「コップの水」は、非常にいい例えです。年々スギ花粉にさらされているうちに、花粉が体内に入って免疫系統が刺激され、コップの水位が高まってくる。予防しないで、更にスギ花粉にさらされ続けると、コップの水があふれる。一夜にして急に花粉症の症状が襲ってくるのは、このようなメカニズムだからです。
既に花粉症に「感作」している日本人の割合は、7割以上と言われています。7歳までに4割の日本人が花粉症に感作し、小学校を卒業する頃までには、ほとんどの方が感作してしまいます。ただし、感作と発症はまた別のもの。感作しても成人までに発症するか否かが、一つの鍵と言えるでしょう。
花粉症のメカニズム
花粉の抗原などの異物が体内に入ると、白血球、細胞、タンパク質などを複雑に介して、「IgE抗体」という抗体が作られます。このIgE抗体が、様々な化学物質の顆粒を含んだ「肥満細胞」に集まっている状態が「感作」です。
そこへ再び抗原が体内に侵入すると、抗原とIgE抗体が反応し、肥満細胞の膜が溶けて中の顆粒があふれます。この顆粒に含まれる「ヒスタミン」が、くしゃみ、鼻水、鼻づまりを引き起こします。また、溶けた肥満細胞の膜から、鼻づまりを引き起こす「ロイコトリエン」が産出されます。この2つの化学物質「ヒスタミン」と「ロイコトリエン」により、花粉症が発症します。
「感作」とは、ある抗原に対し、アレルギー反応をおこしうる状態になることを意味します。ここで、花粉症のメカニズムをごく簡単におさらいしてみましょう。
感作しても、花粉症を発症しないようにするには、どうすればいいのでしょうか?
- マスクをする、空気清浄機を使うなどして、スギ花粉にさらされないようにする工夫が必要です。花粉症は50歳を過ぎるとほとんど発症しませんから、そこまで堅持すればいいのですが、気の長い話ではありますね(笑)。
「多重花粉症」という言葉をご存知でしょうか。スギ花粉だけでなく、複数の花粉に対してアレルギー反応を起こすことを言います。これは、年ごとの増減はあるものの、スギ花粉の平均量が10年毎に増えてきていることと関係があるようです。
- スギ花粉は大量に飛んできますが、毎年飛散する量が違います。例えば、2005年は飛散量が非常に多く、1平方センチメートルのスライドガラスに、1シーズンで2万個ものスギ花粉が付着しました。1平方センチメートルに20個までの花粉ならば、感作の有無に関わらず発症はしません。20個を越えると、鼻がムズムズしたり、目がショボショボしたりし始めます。200個を越えると、薬を飲まずにはいられなくなる。そして500個を越えてしまうと、どんな薬を飲んでも効かなくなります。
薬物療法が限界に達したのに、花粉の量は増え続けている。そこで起きるのが「多重花粉症」です。多重花粉症のメカニズムについて、続けてお伺いしました。
- 花粉症というのは、一度発症してしまうと、雪だるま式にふくらんでいきます。体内に花粉が蓄積すればするほど、花粉症を発症しやすくなり、重症化してしまうと、スギ花粉症だけではなくなります。例えば、通常の「花粉症コップ」では100の目盛まで水が来ないと症状が出ないところを、花粉症の重症化によって体の余裕がなくなり、コップの容量がどんどん減って、90の目盛でも発症してしまう。そうなると、ヒノキやブタクサなどの他の花粉症にも、いとも簡単にかかってしまうわけです。
更に、このコップの容量はどんどん減り続けます。ブタクサ花粉の飛散量は、スギに比べて遥かに少なく、地域も限局的であるが、ブタクサ花粉症の患者が増えているのは、そのためでしょう。
多重花粉症
「体内に花粉が蓄積される」とは、具体的にどういうことでしょうか?
- コップの例えを使う便宜上「蓄積される」と表現しましたが、花粉が体内に入ってくるたびに免疫系統が刺激され、過敏性が増していくことを意味しています。
人間の免疫系統にも容量があり、人間が一生で作れる抗体の数は決まっています。抗体には、大雑把に「バイ菌・ウイルスを退治する抗体」と「花粉を退治する抗体」の2種類がありますが、花粉症の症状が増幅されると「花粉を退治する抗体」の割合が増えて、「バイ菌・ウイルスを退治する抗体」の割合が減ってしまいます。
IgE抗体は花粉を退治しようとしてアレルギー反応を起こす抗体ですが、それがあらゆるものに対して過敏に反応するようになってくると、やがてハウスダストやダニなどのアレルギーをも引き起こし、収拾がつかなくなるわけです。
一旦、ひとつの物質に体が過敏に反応し出すと、何らかの処置をとらない限りどんどん暴走し、連鎖反応していくとのこと。
- 現在、スギ花粉単独の花粉症患者を見つけるのは難しく、実はスギ花粉症患者の6〜7割は、4〜6月に飛散するヒノキ花粉症も併発しています。スギとヒノキは抗原の一部が重なっていて(共通抗原性)、併発しやすい。そしてヒノキ花粉症になったら、数年後にイネ科のカモガヤに、その数年後にはブタクサにと、発症が連鎖していくパターンがとても多いのです。花粉症が季節性ではなくなり、この数年で「通年性花粉症」になっていくといっても、過言ではないと思います。あとは時間の問題でしょうね。
「季節性」であったはずの花粉症が、スギ→ヒノキ→カモガヤと連鎖していくうちに、1年中症状の出る「通年性花粉症」になってしまう……治療しない限りその連鎖から逃れられず、悪化の一途をたどるとは何とも怖い話です。
その連鎖をストップする方法のひとつに、レーザー手術療法があります。レーザー手術療法は外科的治療で、鼻粘膜の表面をレーザーで焼きます。よく使われている治療法ですが、鼻粘膜上皮の持つ生理機能が失われるというデメリットもあるとのこと。
- まず、鼻粘膜の生理機能についてご説明しましょう。鼻粘膜の上皮細胞の表面には、非常に細かい「線毛」があります。この線毛が「ストローク運動」をしてベルトコンベアーのように動くことで、バイ菌やウイルスを咽頭へと送り出し、排除しているのです。
花粉は、そのまま体内に入ってくるわけではないそうです。鼻の粘膜についたカプセル状の花粉が、水分を吸収して破裂し、その中にある「抗原タンパク」が鼻粘膜に染み込む。そうして初めて、アレルギー反応が生じるそうです。ということは、カプセル状の花粉を破裂させないまま、線毛のストローク運動で咽頭から痰として排除したり、食道から胃に送ったりしてしまえば、花粉症にはならないのでしょうか?
- その通りです。線毛のストローク運動は1分間に約7.5ミリと早いので、本来ならば花粉を破裂させないまま排除することが可能です。
ところが、レーザー手術療法で鼻粘膜の表面を焼くと、線毛が無くなり「瘢痕(はんこん:火傷)」ができます。そうすると組織が硬くなり、一見花粉が進入しにくくなるように見えますが、瘢痕組織には線毛がなく、花粉を排除する「自浄作用」を持っていないので、花粉が付着しっぱなしになってしまいます。また、花粉症の時期は快適でも、シーズンオフには他のバイ菌やウイルスを、線毛運動で除去できないというデメリットも。
確かに、レーザー手術療法で組織を固めてしまえば、一定の効果はあるでしょう。ただ、どんなに緻密な瘢痕組織も新陳代謝でゆるんでくるため、1年程度しか効果が持続しません。そこで更にレーザー手術療法を繰り返していくと、機能が低下していき、ひいては違うタイプの鼻炎になる可能性もあります。
レーザー手術療法の利用価値は十分にあります。ただし、たかが季節性の花粉症のために、大事な粘膜を犠牲にしていいのでしょうか。代償が大き過ぎることを、私は啓発したい。できるだけ粘膜を温存して、傷つけないように治療する工夫が必要です。
花粉症の症状を抑えようとしてレーザー手術療法をするはずが、返って花粉を付着しやすくし、花粉の滞在時間を長くして破裂させてしまうとは、何とも皮肉なことです。
レーザー手術療法のように鼻粘膜の生理機能を損なうことなく、症状を抑えるには、どうしたらいいのでしょう? そこで登場するのが、呉先生の「粘膜一本注射療法(アレジオ療法)」です。
- 「粘膜一本注射療法(アレジオ療法)」の最大のメリットは、第一線の防御機能を壊さないことです。粘膜をほとんど傷つけないため、鼻粘膜の生理機能を維持でき、しかも1回の注射で2〜3年から、長い場合は5年以上効果が持続します。
「粘膜一本注射療法(アレジオ療法)」とは
特殊な注射器を使い、「下鼻甲介」の粘膜の内部に、タンパク凝固剤を注射します(レーザー手術療法では、同じ場所の表面を焼く)
。それにより、粘膜の表面を傷つけることなく、鼻粘膜の生理機能を維持しながら、粘膜の過敏体質を改善することができます。
例えるならば、「粘膜一本注射療法(アレジオ療法)」は、溜まったコップの水を、一度ひっくり返して空にするような感じでしょうか。
- そうです。もう一度、再出発の機会を差し上げるということです。レーザー手術療法は、例えるならばコップの上にフタをしている状態ですが、フタは段々ずれてしまう。粘膜の過敏性は変わっておらず、水が満杯の状態でフタをするわけですから、長続きせず、ちょっとフタがずれると水があふれ出るのです。
この注射をすると、スギ→ヒノキ→カモガヤ……と進んで行ってしまう花粉症の連鎖を、ストップすることができるのでしょうか?
- そうです。多重花粉症がかなり進んでいたとしても、高い効果が期待できますよ。
花粉が鼻粘膜内部に侵入すればするほど、その中でアレルギー症状を引き起こし、内部の過敏性が増してきます。過敏性が増すと、免疫の連鎖反応を一層増幅させ、何にでも反応するようになります。そこで、鼻粘膜内部にこの注射をすると、過敏になっている内部の炎症をまっさらな状態に戻すことができます。
注射をしてから数年後に花粉症が再発したら、どうなるのでしょう?
- 注射をして、一旦鼻粘膜内部の炎症をまっさらな状態にすると、数年間は症状が出なくなります。しかし、残念ながら注射は万能ではありません。アフターケアを怠ると、経年により症状が再発することもあります。ただ、再発するまでの数年間で粘膜が丈夫になりますので、再発しても元の悪い状態には戻りません。
花粉症が最初に発症するまでの何十年という年数を考えると、一度精算したコップの水は、たった数年では満杯にならない。再発してどんなに悪くなったとしても、元の7〜8割程度で、元のような辛い症状は出ません。もし症状が出たら、早い段階で薬物療法などをしていただければ、随分過ごしやすくなるでしょう。
注射により、もう一度新しい粘膜を差し上げるわけですから、大事に使っていただきたい。「注射一本で、一生ケアしなくても大丈夫!」というのは、ちょっと怠慢です。
薬が効きやすくなることも、「粘膜一本注射療法(アレジオ療法)」の大きなメリットだそうです。
- 炎症がある状態で薬を飲むよりも、注射をして一度まっさらな状態にしてから飲む方が、より少ない薬で効果が出る。経済的にも身体的にも、いいことだと思います。また、ステロイド剤しか効かない「コップの水が満杯」状態の方に、漢方治療をしようとしても難しいですが、注射でリセットした状態なら漢方のように体に優しい治療でも十分に効果が出ます。
なるほど……コップが満杯の状態で、漢方や甜茶、紫蘇、ビフィズス菌などの健康食品を取り入れるから、なかなか効果が上がらないのですね。同じ物を摂っても効く人と効かない人がいるのは、コップの水位が違うからなのかも。まずは、自分のコップの水位がどの状態にあるのか、病院で血液検査や粘膜の状態を確認してもらい、把握しておくことが大切なようです。
マスク
日頃の薬物療法や、呉先生の「粘膜一本注射療法(アレジオ療法)」など、アフターケアとしては、具体的にどのようなことをすればいいのでしょうか。
- マスクや空気清浄機を使用したり、症状が出た時にすぐ薬を飲んだり。とにかく、「炎症の蓄積をさせない」ことが基本。炎症が溜まれば溜まるほど過敏になり、免疫機能が増幅されて余分なIgE抗体が作られるなど、色々な連鎖反応が起きてしまいます。
これは「コップを満杯にしないため」……つまり、「感作しても発症しないようにするため」に必要なことと、全く同じようです。発症・再発しないためには、マスクや空気清浄機のほか、どのようなことが必要でしょうか。
- 食べ物や睡眠時間など、生活環境にも気を遣っていただきたい。疲れないようにして炎症が起こりにくくし、炎症が起こったらすぐに抑える。風邪と一緒なんですよ。風邪をひいたら栄養をとり、薬を飲んで、よく眠るでしょう。花粉症も同じで、外出する時にはマスクをつけ、症状がある時には我慢をせず薬を飲むことが大切ですね。
症状が出ないと、マスクをしない人も多いようですが……。
- 面白いことに花粉症には時間差があり、花粉にさらされたその日ではなく、翌日に症状が出ます。その日は何ともないように見えるかもしれませんが、やはりマスクは必要です。
よく「高いマスクを選んだ方がいいですよね?」と聞かれますが、SARSやインフルエンザなどのウィルス対策ではないので、そうではありません。自分の顔の形・輪郭に合うようなマスクを選んでいただきたい。1枚1500円もする高性能マスクがありますが、頻繁に交換できることも重要なので、安いもので結構です。汚れ具合も見つつ、2〜3日に1回程度マスクを交換すること。お化粧をする女性は、中に薄いガーゼを入れて、ガーゼを交換するといいでしょう。針金が入っていて鼻の形にフィットするものや、つけてリラックスできるものなら、長く続けられます。
マスクと同様に、自分が一番ストレスの溜まらない、自分に合う治療法を選んでいただきたい。ストレスや負担を感じてしまうと、長続きしませんからね。
花粉症の時期は肌も敏感になるため、顔のかゆみやジンマシンの症状が出る女性の方も多いようですね。
- ええ。肌を守るためには、外出時はマスクをし、コートは玄関先で脱いで、花粉を部屋の中に入れない。帰宅したら、すぐお風呂に入って花粉を洗い流す。毛足の長いウールや静電気が起きやすいフリースは避け、花粉の付かない服装を心がける。首に巻くマフラーは口元に近く、着いた花粉を吸い込み続けることになるので、やはりマスクをするのが確実。マメさが大事です。
花粉症になると、多くの人は薬局に行って薬を買う、病院で処方してもらうなど、最初に薬物療法をすると思います。薬物療法だけでは、多重花粉症になりやすいのでしょうか?
- そんなことはありません。30種類近くの抗アレルギー剤がありますので、その中にはご自分に合う薬があるはずです。高まりつつある過敏性を一旦抑え、満杯になりそうなコップの水位を低くしてくれるのが薬です。薬を飲んでいる間は水位が高まらず、炎症が蓄積されませんので意義があります。ただ、薬物療法は対処療法に過ぎず、飲まないと症状がぶり返します。
薬を飲んでいたけど、スギ花粉症からヒノキの花粉症も併発してしまったモンナージュスタッフ中澤。飲み方が悪かったのか、薬が体に合わなかったのでしょうか。
- 最近の処方薬は、合わない薬はほぼないと思います。ただ、飲み始めたタイミングや持続する期間、花粉症の期間に風邪で体調を壊していないかなど、様々な要因があります。逆に言うと、薬を飲んでいなければ、今頃ブタクサ花粉症まで併発していた可能性もあるんですよ。
スギ花粉症の症状を抑えるためだけに、薬を飲んでいると思っていましたが、薬には花粉症の連鎖を止める効果もあったのですね!
- ええ。薬を飲むことで炎症や過敏性を抑えて、次の花粉に反応しないための粘膜作りをしているのです。症状が出ないと止めてしまう方も多いですが、花粉症の期間が終わった後も、鼻粘膜の炎症はすぐに消えるわけではないので、薬は続けて飲んだ方がいいです。
花粉が本格的に飛び始める2週間ほど前に、薬を飲み始めることを「初期投与」と言います。ですが、多重花粉症を防御するには、私はむしろ花粉症の症状が治まってもしばらく飲み続ける「後期投与」をお勧めします。後期投与の意味は、ヒノキ花粉症など、スギの次の花粉症を予防することにあります。スギ花粉症のコップの水があふれてヒノキのコップに移る前に、薬を飲み続ける。そうすれば、次の花粉症から免れるかもしれません。
また、スギの後に待っているのはヒノキですが、期間は重なっています。「自分はスギ花粉症」と思い込んでいる方が多いですが、花粉症の統計ではスギ花粉症患者の6〜7割はヒノキの花粉症も併発しています。とすると、スギ花粉の飛散が終わっても、ヒノキなど他の花粉症は続いている可能性があるので、やはり長めに飲むべきです。
スギ花粉症の時期が終わった後、後期投与として、どのくらいの期間薬を飲み続ければいいのでしょう?
- スギ花粉症の症状が重いせいでヒノキ花粉の症状には鈍感になりがちですが、ヒノキ花粉症を併発している方は、6月頃まで、1〜2ヶ月長めに飲み続けるとよいでしょう。ただ、自己判断はせず、病院で血液検査や粘膜の状態の確認をしてもらい、現時点でどれほどの原因物質があるかを知った上で、治療方針を立てるべきでしょう。もしかしたら、ブタクサ花粉症にかかっている場合もあるのですから。
薬物療法で済む場合もあれば、呉先生のお勧めされる「粘膜一本注射療法(アレジオ療法)」で、一回コップの水を空にする方がいい場合もあるのでしょうか。
- 特に多重花粉症の場合は、場合によっては1年中薬を飲み続けないといけませんから、経済的・身体的負担がかなり多くなります。注射で、一回精算することをお勧めします。
アレジオ銀座クリニックでは、特に女性の花粉症患者を気にしているそうですが、それは何故でしょうか。
- 女性の花粉症患者は、妊婦になると症状が比較的ひどくなる場合が多いためです。しかも花粉症の薬は母乳に出てしまうため、妊娠期間中は薬が飲めなくなってしまいます。
赤ちゃんは十月十日お腹の中にいるので、お母さんの体質を持って生れてくる確率が高い。IgE抗体の数値を下げてから赤ちゃんを産まないと、赤ちゃんにとってもその後の成長過程に様々な影響がありますし、出産後にIgE抗体の数値を下げるのはなかなか難しい。女性の方は、単なるアレルギー性鼻炎なのか、他に問題はないのかということも含めて、妊娠前にきちんと調べた方がいいでしょう。そして、花粉症のピークに当たらない時期に産んでいただきたいものです。
できれば妊娠する前に、「粘膜一本注射療法(アレジオ療法)」で花粉症を治療しておくというのがベストなのでしょうか。
- ええ、妊娠予定のある女性の方にはオススメします。と言いますのも、妊娠してすぐの段階であれば注射できますが、妊婦さんには麻酔を使えないからです。母体を万全な状態にしてから、妊娠・出産というプロセスを経た方がいい。注射をすると数年間効果は持続するので、その間に妊婦になり、出産して授乳すれば十分間に合います。
それに母体が鼻呼吸できないと、元気な赤ちゃんが生れません。鼻呼吸はとても大切。十分な酸素を取り込むだけでなく、鼻は外から入ってきた空気を、除菌・加湿・加温してくれます。口呼吸だと除菌・加湿・加温が十分にできず、慢性扁桃炎や気管支炎などにもかかりやすくなります。菌がない空気を胎児まで取り入れるためにも、治療をして鼻呼吸をしていただきたいですね。それに鼻呼吸は肌もキレイにしますので、女性にとっていいことばかりなんですよ。
花粉症になってから、大好きだった春が大嫌いな季節になった、という方も多いのではないでしょうか。花粉症の症状がひどいと、お花見に行っても桜の美しさを愛でることができません。
- 季節性の花粉症と言っても、その時期は1年の1/3や1/4を占めます。せっかく春はいい季節なのに、外出したくないという患者さんも多い。どうか嫌だ嫌だと思わずに、前向きに花粉症を理解しコントロールしてください。そうすると、生活も楽しくなります。
他の器官と比べて、あまり重視されることのない「鼻」ですが、アンチエイジングの見地から見ても、とても大切な器官だそうです。
- 粘膜を一番簡単に診られるのが「鼻」。「粘膜年齢」と私は言っているのですが、鼻粘膜を診ただけで体の中が若いか否かが分かります。人間の体を覆っているものは、表が皮膚で、中が粘膜。皮膚にシワができるように、粘膜にも年齢が出ます。皮膚がキレイな人は健康であるのと同様に、いい粘膜の持ち主は健康を保っている。粘膜は、色々なことを物語る窓口なのです。「見えないからいいや」と思われるかもしれませんが、やはり内側からキレイにならないと。粘膜をきちんと整えていただくと、健康的になると思います。
最後に、呉先生から読者へのメッセージです。
- 鼻はご自分の大切な体の一部なので、勉強していただきたいのです。医師に任せきりでは、治療も上手くいきません。どの治療法も同じなのですが、患者さん自身も「本当にこの病気を治したい」「この先生に治してもらうんだ」と思っていらした方が、治療効果も高くなります。薬もただ「朝晩飲めばいい」と形式的に飲むのではなく、何のために飲むのか自覚して飲んでいただいた方が、飲み忘れもなく、効果も上がると思います。
私はいつも患者さんに「治療はただの手助けに過ぎない。本当に治すのは、あなたの努力です」とお伝えしています。人生で3つのこと……「「勉強」「仕事」そして「健康」は、自分でやり遂げないといけません。健康を手に入れるのは、100%自分の努力。他人の力では、どうにもなりませんからね。
この3つは、幸せな人生を送るために不可欠な要素ですね。
「健康を人任せにしない」……患者さんも、医師の著書を読むなど勉強をして、自覚を持って来院することが必要なようです。
正直、取材をさせていただくまでは、鼻がこんなにも大事な器官だとは思っていませんでした。特に女性にとっては、自分のためというのもさることながら、生れてくる赤ちゃんのためにも、花粉症をリセットして快適な鼻呼吸を保つことが大切なようです。
花粉症になった人は、まず病院に行って血液検査をしてもらい、粘膜の状態を診てもらう。自分が何の花粉症なのか、他のアレルギーはないのか、まず調べることが大切です。それにより、思ってもみなかったアレルギーが発見されるかもしれません。ただ、発見されたからといって、悲観的になることはありません。
薬物療法や「粘膜一本注射療法(アレジオ療法)」など、どのような治療が自分にとって一番ストレスがないのか、前向きに考えてみる。マスクや空気清浄機を使い、生活習慣を見直して、炎症を溜めないようにする。キレイな鼻粘膜を保ち、内側からキレイな女性になりたいものです。
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